私の味方

私の味方

埼玉県 派遣社員 Kさん(30代・女性)の恐怖体験談

それまで専業主婦だった私は、息子の保育園入園をきっかけに、派遣社員として働きに出ることが決まりました。

初めのうちは少しの時間、子育てから解放され、仕事とはいえ自分の時間が持てることが嬉しかったのですが、やはり仕事と子育ての両立は難しく、少しずつ疲れも溜まってきた頃、ちょっとしたすれ違いから、主人と大喧嘩になりました。

そもそも主人は家事や育児に消極的で・・・と言った話をここでしても仕方ないのですが、とにかく以前からさまざまな面で価値観の違いを感じることが多くなり、私が働きに出るようになってからは、ますますそのギャップが顕著になったように思います。

それからと言うもの、主人との関係は以前にも増して、険悪というよりは希薄になり、何日も会話がないのは当たり前。
仕事を理由に以前から遅かった主人の帰宅時間もますます遅くなり、所謂「家庭内離婚」のような生活が、何ヶ月も続きました。

それでも、唯一の私の味方である息子にだけは不自由な思いも、悲しい思いもさせたくない。
この憤懣遣る方無い思いを、息子にだけは悟られたくない。
私はその一心で我慢を重ね、息子の前だけは明るく振る舞うよう努めていました。

そんなある日の深夜。
いつものように、私と息子が寝ているベッドに、帰宅した主人が入ってきました。
息子が生まれてからずっと、ベッドの真ん中に息子を寝かせ、その両端に私たち夫婦が息子の方を向いて寝るのが習慣でしたが、最近の主人は息子にさえ背を向けて寝るのが習慣になっていました。

それからしばらくまどろんだ頃、主人の苦しそうな呻き声で目が覚めました。

主人の方に目をやると、私に背を向けて寝ている息子の向こう側で、仰向けになって苦しそうな呻き声をあげる主人のお腹の上にまたがって、まるで心臓マッサージのようにグイグイと胸を押す人影がはっきり見えました。

主人の胸を押すたびに大きく揺れる長い髪。常夜灯の下でも何故かはっきりと白いブラウスに濃いグリーン系の細めのプリーツが入ったスカートを履いているのが見えました。
そこから覗く手足の細さから、女性であることは明確です。ただ、肝心の顔は長い髪に隠れて見ることができません。
その女が主人の胸を押すたびに、息子が起きてしまうのではないかと心配になる程ベッドがギシギシと軋むので、これは夢ではないと思いました。

普通、もしそんな光景を目の当たりにしたら、飛び起きて悲鳴でもあげそうなものですが、その時の私はなぜだかとても冷静で、むしろ「この女はきっと私の味方なんだ」という気がして、とても穏やかな気持ちだったのです。

そしてその時、私の脳内には、とても恐ろしい考えが浮かびました。

「このまま放っておけば、主人は・・・この男は、死ぬのではないだろうか・・・」

そう思った次の瞬間、私は主人に背を向け、そのまま眠りについたのです。

翌朝、何事もなかったかのように起きてきて、当たり前のように出された朝食を息子と一緒に食べる主人を見て、やはり昨晩のことは夢だったのかとホッとしたような、正直少し残念なような、何とも言えない複雑な心境になりました。

それからと言うもの、まるでデジャブのように、毎晩ほとんど同じシチュエーションで、主人にまたがって心臓マッサージをする女を見ながら眠る日々が続きました。

それが2週間ほど続いた頃、さすがに主人もやつれてきて、顔色も悪く、定時に帰ってきてはベッドに転がり込んで翌朝まで眠ることもありました。
もちろんそんな日も、夜中にあの女が出てきて心臓マッサージをするので、主人はそれからさらに衰弱していきました。

ある日のこと、主人は入社以来初めて、体調不良で欠勤しました。

朝から何も食べず、寝室で寝込んでいる主人を尻目に、息子と私はいつものルーティンで、朝食を取り、身支度を整えていきます。

すると、朝食を食べ終わった息子が、私にこう言いました。

「・・・ママ、昨日もパパのこと、エイ!エイ!ってしてたね・・・」

その言葉を聞いた瞬間、私は全身に怖気が立つ思いがしました。

どうやら背中を向けて寝ていると思った息子は、目を見開き、毎晩はっきりとあの様子を見ていたのです。

そして、息子が言うには、その女は・・・私だと言うのです!!

実は・・・私も知っていたんです。

あの女がいつも着ている白いブラウスも、濃いグリーン系の細めのプリーツが入ったスカートも、私のお気に入りの服だと言うことも。

そしてあの女が、実は自分自身であることも。

主人の帰りが毎晩遅いのは、会社の部下の女性と逢瀬を重ねていたからだと言うことも、何もかも全部、知っていたのです。

それからしばらくして、私たち夫婦は離婚が決まりました。

もちろん息子の親権は、私が取りました。

主人はその後、体調を崩して会社を辞めたらしいのですが、会うこともないので細かいことは知りません。

私は今、唯一の味方である息子と2人で、忙しくも幸せな日々を送っています。

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