まばたき

まばたき

東京都 会社員 Wさん(20代・男性)の恐怖体験談

高校を卒業した後、東京の会社に就職が決まりました。

本来なら会社近くの寮に住むはずだったんですが、水回りの修繕が必要だってことで、その工事が終わるまでの3ヶ月間だけ、どこか別に部屋を借りて欲しいってことで、まずは仮住まいのアパートを探すところからのスタートになりました。

その時、準備金として会社から支給されたのは、封筒に入った現金60万円。
当時まだ高校を卒業したばかりの私にとって、それは見たこともない大金でした。

しかも会社側は、そのお金が足りなくてもそれ以上は出さないけど、余っても返さなくて良いっていうんです!
初めは社宅に入れなかったことや、通勤のことなんかもありましたから、正直、面倒に感じていましたが、そうなるともう、俄然やる気が出て来ました。
私は少しでもお金を浮かせようと、早速不動産屋をシラミ潰しに徘徊して、とにかく安い物件を探し回ったんです。

不動産屋巡りを繰り返すこと十数件目。
私はついに掘り出し物とも言える物件を探し当てました。

築34年は少々古いなと思いましたが、全8部屋のアパートの2階の角部屋です。
ちょうど半年後に建て替える予定のため、積極的に借り手を探していなかったということで、もちろん敷金も礼金もなし。
近隣の相場よりずっと家賃が安いというのも、これなら納得です。
そもそも3ヶ月しか住む予定がないんですから、まさに渡りに船のような物件でした。

外観は古びていて、いかにも安アパートでしたが、部屋の中を見る前から、心はすでに決まっていました。
六畳一間に小さなキッチンとユニットバス。当然、部屋の中も古びていて、決して綺麗とは言えませんでしたが、前の住人が置いていったという小さな冷蔵庫と、比較的新しいエアコンと、小さな窓に不釣り合いな、床に届きそうなほどの大きなベージュのカーテンと、今どき珍しい丸い蛍光灯の照明まで付いていました。

これならほとんど何も買わずに、すぐ住める。

私はろくすっぽ他の物件を見ることもなく、不動産屋さんも驚くほどのスピードで、すぐに契約しました。

それから3日後に引っ越しの日を迎えました。
元々これと言った荷物もないので、着替えとちょっとした日用品の入った鞄を2つ、部屋の隅に降ろして、引っ越しはあっさり完了です。

その日の夕方、1時間ほどウトウトしていたのですが、何だか夢見が悪くて、ぼんやり目を覚ました頃にはすっかり日も落ちて、部屋の中は薄暗くなっていました。

今思えば、おかしなことが起き始めたのは、その時からでした。

これはあくまで感覚でしかないんですが、引っ越し当日から、この部屋にいると、とにかくなんだか落ち着かないんです。

誰かに見られているような、誰かと一緒にいるような、そんな気がして仕方がないんです。

まぁ、それまで実家で上げ膳に据え膳、ぬくぬくと暮らしていたわけですから、慣れない環境がストレスになっているんだろう。
初めはそう思っていたものの、ゆっくり熟睡できた日なんて、この部屋に引っ越して来てから、1日もありませんでした。

それでも引っ越しから3日ほど経ってからは仕事も始まりましたので、そうそう甘えたことも言っていられません。

この部屋がどんなに気に入らなくても、せいぜい3ヶ月の辛抱ですし、とにかく仕事を覚えることが最優先事項です。

それから毎日、慣れない仕事に翻弄され、疲れ切って帰って来ては布団に潜り込むのですが、どうにも身体が休まりません。

どんなに寝ても、全く疲れが取れないのです。

それに、数日に1回、朝起きた時に、腹部に幅10センチほどの人差し指くらいの大きさの内出血が3、4箇所、一直線に並んで付いていることがあり、それも原因不明でどうにも不可解でした。

そんな毎日を過ごしていると、次第に精神的に不安定になっていくのが、自分でもよく分かりました。

なんとなく部屋の外から誰かに見られているような気がして、何度もカーテンを開けて見たり、一度押し入れが気になり始めると、そーっと近づいて素早く押入れの襖を開けてみたりして、もうほとんどノイローゼ状態です。
鏡を見てもげっそりとした表情で、自分でも顔色が悪いのが分かるようになって来ました。

引っ越しから2ヶ月ほどたったある日のことです。

いつも気になっていて、今日こそは帰ったら実践してみようと思っていたことがありました。

帰宅後、部屋に入って蛍光灯を点けると、毎回ほんの一瞬だけ、畳の真ん中にパチパチッっと、大きな黒い円が映るんです。

初めは丸い蛍光灯の影や反射か、もしくは残像か何かかと思っていたんですが、どうもそれとは違うようです。

あらためて蛍光灯を点け直しても、黒丸は映らず、見えるのは帰宅した直後、1回だけなんです。

そこで、今日は帰ったら玄関ですぐにスマホで動画を撮り始めて、例の黒丸を撮影して、その正体を暴いてやろうと思ったんです。

スロー撮影にすれば、一瞬しか現れない黒丸の正体もはっきり写るかも知れません。

スマホのライトを点けると同じ条件で再現できないので、あえてライトを消した状態で、ゆっくり部屋の中に入っていき、畳にカメラを向けて、蛍光灯を点けました。

蛍光灯の明滅に合わせて、画面もパチパチッと光り、例の黒丸も目視できたので、おそらくその正体が写っているはずです。

早速撮れた動画を再生してみると、その正体がわかりました。

「目だ!黒眼だ!まばたきしている眼球だ!」

しかも、画面の右下の敷きっぱなしの布団の上には、不気味に笑う口角と歯がはっきりと映っています!

つまり・・・この部屋全体が、巨大な顔になっていたんです!

「じゃあ腹の内出血は・・・ 歯型?!噛まれた痕だ!」

それに気付いた瞬間、大急ぎで部屋を飛び出して、その日は近所のファミレスで夜が明けるのを待ちました。

翌朝、出勤してすぐに会社の担当者に「工事中でも構わないから」とわがままを言って、例のアパートは引き払って、その日のうちに会社の寮に引っ越しました。

その時、1つ思い出したんです。

内見の時、不動産屋さんがこの部屋だけは中に入らずに、ずっと部屋の外で待っていたんです。

私もそこで気付けばよかったんですよね・・・

その時撮った動画は、すぐに消去しました。

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