静岡県にお住まいの、60代の男性 Aさんの、地元では有名な心霊体験談です。
この話は、私が60年以上生きて来た中で、去年初めて経験した恐怖の心霊体験談です。
長年勤めた会社も定年退職になり、終の住処を探していたところ、やはり生まれ育った地元が忘れられず、退職金を使って、幼少期に住んでいた家の近くに中古の家を購入して住むことにしました。
50年近くの時を経て暮らす故郷の街並みは、あの頃から比べると随分様変わりしていましたが、海岸線や公園、周辺を走る道路などは、ほとんど当時のままです。
引っ越してすぐに近所を車で走っていると、現在の風景と子供の頃に見た懐かしい情景の記憶とが重なり、ノスタルジックな夕焼け空の色と相まって、まるでタイムスリップしたかのような感覚になりました。
「確かこの先の左側に、よく遊んだ公園があったはずだな」
そう思いながら車を走らせていると、予想通り公園があり、その入り口に、全身真っ黒な衣装に身を包んだ女性が立っていました。
その女性は高々と両手を上げ、その手に黄色いボールを持っています。
それを見た瞬間、50年前の記憶が一瞬で蘇りました。
それはまだ私が小学生だった頃、その公園で遊んでいた子供が投げた黄色いボールが車道に出てしまい、それを追いかけて飛び出したその子は、走って来た車に轢かれ、この場所で亡くなったのです。
その後、少年の母親は精神を病み、葬儀の時に着ていた黒装束で毎日この公園の入り口に立ち、息子を轢いたのと同じ白い乗用車が通るたびに、目の前に黄色いボールを投げつける行為を繰り返していました。
少年を轢いた乗用車がかなりのスピードで走っていたこともあり、近隣住民はその母親の気持ちが痛いほど理解できました。特に白い乗用車に乗っている住民は、そこを通る時はスピードを落とし、気を付けて走行していました。
ただ、住宅街を抜けるその道は、住民だけが通るわけでもないため、その行為に危険を感じたドライバーが警察に通報し、その母親が逮捕されることもありましたが、それでもその母親は、何度も何度も、白い車の前に黄色いボールを投げつける行為をやめませんでした。
私も当時一度だけ、その奇行を目の当たりにしたことがあり、それ以来その公園から足が遠ざかっていたことも思い出しました。
それから少しして、私は父の仕事の都合で遠方に引っ越したため、その後のことは知りませんでしたが、その一件を思い出した瞬間、心の中で「マズい!」と思いました。
私が今乗っている車も、白い乗用車だったのです。
そう思ったのも束の間、その女性は高々と上げた両手で持った黄色いボールを、私の車の前に投げつけて来ました。
「うわぁ!あのおばさん、まだやってんのか・・・」
そう思った次の瞬間、私は信じられないものを見てしまいました。
その女性が投げたのは、黄色いボールなどではなく、小学生の黄色い通学帽をかぶった子供の頭だったのです!!
道路の真ん中で跳ね、コロコロと道端まで転がった生首は、反対側の民家のブロック塀にぶつかって止まったかと思うと、ぐるりとこちらを向いて、ニヤッと笑いました。
「もうあのおばさん、生きてる人間じゃない!!」
黒装束の女性の表情を見ると、転がった生首によく似た顔つきで、気味の悪い笑みを浮かべていました。
慌ててアクセルを踏んで、その場を離れようとした時に目に飛び込んできたのは、道路脇に設置された立て看板でした。
その看板には、転がっていくボールを追いかけて道路に飛び出す子供の絵と「子供飛び出し注意」の文字があり、その横に寄り添うように立っていたのは「その他の危険」の道路標識でした。
後から聞いた話では、その母親は私たちが引っ越してからすぐに、あの公園の入り口のフラワーアーチにロープをかけ、黒装束に息子の黄色い通学帽をかぶった状態で、首を吊って亡くなったそうです。
よく考えてみれば、あの女性が事故当時20代だったとしても、もう50年以上前のことですので、70代、80代のはずですが、私が見たあの女性は、とてもそんな年齢には見えませんでした。
その後、私はすぐに、色違いの車に乗り換えました。