掘りごたつ

掘りごたつ

東京都 会社経営 Mさん(50代・女性)の恐怖体験談

今から20年ほど前、勤めていた会社が早期退職者を募集することになりました。
いわゆるリストラです。

バブルの頃に入社した私たちは、儚くも2年目にはバブル経済の終焉を迎え、それ依頼、業績はずっと右肩下がり。
どんなに頑張っても売り上げは一向に上がらず、聞くのは上司の「昔は良かった」という愚痴ばかり。
正直、仕事にも人間関係にもうんざりしていた私は、思い切って会社を辞めて、独立することを選びました。

独立して最初に感じたのは、皮肉にも会社組織のありがたさでした。

そもそも論として、私の見通しが甘かったのでしょう。
売り上げに直結しないような事務仕事は想定よりずっと多く、その上、業績はいつまで経っても思うように上がりません。
それでも何とかこの仕事に食らいついて、いつかきっと良くなると信じ、退職金を切り崩しながら頑張っていました。

それからあっという間に数年が経ちました。
相変わらず、仕事の方はうまくいかず、もしかしたら会社をたたんで、どこかに再就職しないとダメかもしれないと考えて始めていた頃です。
大学時代の友人から、久しぶりに連絡がありました。

学生時代に仲が良かった3人で、温泉にでもい行かないかと誘われたのです。

正直、お金もなかったし、断ろうかとも思ったのですが、その頃はかなり鬱々としていたので、思い切ってその誘いに乗ることにしました。

私は普段、どこに行くにもパソコンを持ち歩き、メールのチェックなどしていたのですが、今回はそんな気になれなかったので、自宅を兼ねた事務所にパソコンは置いて行くことにしました。もう、何もかも忘れて、全てから解放されたかったんですね。

久しぶりにバッチリメイクをして、お気に入りの服に袖を通し、ワクワクしながら待ち合わせの場所に向かうと、数年ぶりに会う彼女たちはあの頃と同じで、長く会えなかった時間の空白も一気に埋めてくれました。

行き先は友人が手配してくれた、G県の温泉街にある旅館です。

古い旅館でしたが、雰囲気もよく、料理も美味しくて、何よりも友人とのんびり温泉に浸かっていると、毎日通帳と睨めっこをしながらお金と時間のカウントダウンのような事ばかりしていた自分が、何だか滑稽に思えました。

宿泊した部屋には、珍しく掘りごたつがありました。
レトロな赤い千鳥模様の布団が、とても可愛かったのを覚えています。

地元のお酒を飲みながら、昔話に花を咲かせていると、何度か友人と足が当たり、その度に私は「あ、ごめんね」と謝るのですが、友人は2人とも知らん顔をしています。
気が置けない友人というのはいいものだ。
その時までは、そう思っていました。

ところが、友人の一人に「M、さっきから誰に謝ってんの?」と指摘され、もう一人の友人も、うんうんと頷いています。

「いや、さっきから足蹴っちゃってるでしょ?」

そう言っても、2人とも「それ、私じゃないね」と首を振ります。

おかしいなと思い、コタツ布団をめくって中を覗くと、浴衣のような着物を着て、膝を抱えたおかっぱ頭の男の子とバッチリ目が合ったのです!

「きゃーーー!!」

私が大慌てでコタツ布団から這い出ると、友人2人もつられて足を引き抜き、私の方に猛スピードで這ってきて、3人で抱き合いました。

「なにナニなにっ!!なによっ!」

「ど・・・どうしたのよ!!」

「こ・・・こたつの中に!・・・男の子がいる!!」

しばらく3人で抱き合い、震えながら見間違いだ! いやいや間違いなく目が合った! と押し問答を続けたのですが、このままでは埒が開かないと判断して、一番気が強い友人に、布団をめくって中を確認してもらうことになりました。
もう一人の友人は、なぜか枕を振りかぶって身構え、攻撃の準備をしています。

「いい?開けるよ!せーのっ!」

思い切って布団をめくった掘りごたつの中はもぬけの殻で、誰もいませんでした。

その後、私は嘘つき呼ばわりまでされたのですが、間違いなく見間違いではないことを懸命に主張して、最終的には布団の模様を見間違えたのだということで、一件落着となりました。

もちろん私は不満でしたが、それ以上ゴネて雰囲気を悪くしたくなかったので、その場はそれで収めることにしたのです。

翌日、夜遅く家に帰り、携帯でお互いの無事を確認し合ってから、2日ぶりにメールのチェックをすると、驚くほど多くの仕事の依頼がきていました。
しかも、今までなかったような、高額の案件ばかりです!

慌ててメールの返信を打ちながら、私、そこで気付いたんです。

掘りごたつの中にいた男の子は、もしかして「座敷わらし」だったのではないでしょうか?
いえ、間違いなくそうです。

それ以降、会社も順調に回り、毎年あの旅館に3人で訪うことが恒例行事になりました。

もちろん行く時は例の掘りごたつの部屋を指定して、毎回お供え用のお菓子をたくさん持って行くようにしています。

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