悪趣味

悪趣味

大阪府 エンジニア Hさん(50代・男性)の若気の過ちが原因の恐怖体験談

1970年代後半に生まれた私は、いわゆる「就職氷河期世代」といわれ、大学を卒業しても、就職先など皆無に近い状態でした。

時間は腐るほどありましたので、実家の世話になりながらアルバイトを続け、いくばくかの給料で中古の携帯電話を買ってきては、データを復元するのがその頃の趣味でした。

今考えたら何とも陰湿な悪趣味だと思いますが、その当時は自分の技術が持ち腐れになるのがどうしても嫌だったのです。

さらに恥ずかしいことに、あえてピンクや赤の、女性向けの色合いやデザインの物を購入しては、写真やメールなどのデータを復元して、楽しんでいました。

今はデータの復元など、そう簡単にはできなくなりましたが、昔は相応の知識と技術があれば、そんなこともできてしまったんですね。

そして、確か2000年代前半だったでしょうか。初めてのスマートフォンが登場すると、それが一気に普及し、いわゆるガラケーの中古が大量に出回り、値段も安くなったので、このチャンスを逃すまいと何十台かまとめて買ったんです。

買って来た携帯を自宅に持ち帰り、机の上に並べ、品定めをしていると、その中の1つに、バッテリーケースの裏側に色褪せたプリクラシールが貼ってあるデバイスがありました。

どうやら彼氏と彼女が、仲睦まじく写っているようです。

こういった携帯には、掘り出し物が多いんです。(キモイですよね。ごめんなさい)

早速PCに繋ぎ、送受信されたメールの内容や保存されているデータを復元すると、期待通り、大量のデータが出て来ました。

さらにその携帯は解約してからそれほど時間が経っていなかったようで、こんなことは滅多にないのですが、サーバー上に残っていたメールのデータを一気にダウンロードすることができたのです。

その時は久しぶりの快挙に大興奮しました。

メールの内容を紐解いていくと、どうやら初めのうちは仲睦まじかった二人が、恐らく彼氏の浮気か何かが原因で次第に距離が生じ、最後は別れ話に発展したようです。

客観的に見ると、男の方はいわゆるホストではないかと推察されました。

他人の生活を覗き見ることが常習になると、中毒性があるので、やめられなくなるんです。

特に写真のデータが多く出て来た時は、歯止めが効かなくなります。

その日も真夜中だったこともあり、テンションが上がってしまった私は、携帯の持ち主である女の子にメールをしてみようと思いました。(本当にキモイですよね。マジごめんなさい)

携帯が変わっても、同じキャリアなら引き続きキャリアメールを使っている可能性があります。

メールの内容を考えていたその時、突然その携帯に着信がありました。

中古の携帯にはSIMカードが入っていないはずなので、着信など絶対にあり得ません。

それでも呼び出し音が鳴り続けるので、恐る恐る電話に出てみると、悲鳴のような赤ちゃんの鳴き声や電車と踏切の音、女性の叫び声などが入り混じって聞こえて来ました。

恐ろしくなって慌てて携帯を放り投げると、机の上に並べたすべての携帯が一斉に鳴り始め、通話ボタンを押してもいないのに、さっきと同じ悲鳴のような赤ちゃんの鳴き声、電車と踏切の音、女性の叫び声などが入り混じって聞こえて来たのです!

慌てて電話を切るマークを押して回りましたが、どの携帯も通話を切ることができず、不気味な音声は一向に止まりません。

部屋から逃げ出そうかと考えたその時、点灯していたすべての携帯の明かりが消え、不気味な音も止まりました。

腰が抜けたようになった私が静まり返った部屋でホッとしたのも束の間、突然耳元でハッキリと聞こえたのが、

「赤ちゃんどうすんのよ」

の一言でした。

その瞬間、ホストと関係を持った女性が妊娠・出産し、騙されたことに気付き、生まれた赤ん坊と一緒に電車に飛び込んで・・・というストーリーが走馬灯のように脳裏に浮かびましたが、真実を知る術はありません。

恐怖で一晩中まんじりともできず、翌日になってから携帯はすべて廃棄し、今までの悪趣味とは一切、決別することにしました。

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