安産祈願

安産祈願

神奈川県 主婦 Sさん(20代・女性)の恐ろしい体験談

私が短大を卒業したその年、妊娠したことがきっかけで、当時付き合っていた4歳年上の彼と、結婚することになりました。

その当時、新型コロナの影響で、大々的に結婚式を挙げることが難しい時期でもあったので、そのことは誰に知らせることもなく、両家の両親と顔合わせをして、ウエディングフォトを撮るだけの、質素な儀式でハイおしまい!と言った感じでした。

いわゆる妊娠安定期に入った頃、どこから情報を仕入れたのか、短大時代の親友2人が私の結婚のことを聞きつけ、お祝いをしようということになりました。

お祝いと言ってもまだまだ多人数で会食はできない頃でしたから、まずは3人だけで会おうということになり、私と彼の新居に集まることになりました。

まずは「結婚したことをなぜ黙っていたのか」という攻撃で、針のムシロ状態です。

しばらく責められながら「実は私、妊娠してるんだよね」と、いつカミングアウトするか、そのタイミングを計っていたところで、友人の一人、麻友がトイレのために席を立ちました。

すると、もう一人の京香が、麻友に聞かれないよう、すかさず小声で言いました。

「咲希、妊娠したんだって? おめでとう〜 はいコレ。昨日行ってきたんだよ」

そう言って、県内にある「Y水天宮」と書かれた小さな袋を渡してきました。

中には「安産祈願」と刺繍が入った、可愛いお守りが入っていました。

誰にも言ってないのに、どこで知ったんだろう?

そう思ったところで、麻友が帰ってきたので、そのことは聞きそびれてしまいました。

その後は短大時代の楽しかった思い出話に花が咲き、結局最後まで妊娠のことは言えないまま、久しぶりの女子会はお開きになりました。

それから1週間も経たないうちに、私は突然体調不良を起こし、病院で診察を受けたところ、流産していることが分かりました。

いわゆる安定期に入ったばかりで、お医者さんも原因の特定は難しいとのことで、その後しばらくは悲しみに暮れる日々が続きました。

それから2年後、私は再度妊娠しました。

するとどこで聞きつけたのか、京香から連絡があり、また3人で会おうということになりました。

「前はほら、効かなかったじゃない?だから今度は違うのにしたの」

そう言いながら麻友がいない隙を狙って、県内I市のH神社と書かれたお守りを、屈託のない表情で渡してくる京香に何か少し違和感のようなものも感じましたが、それでも悪気があるわけではないと思い、ありがたく受け取りました。

それから1週間後、私はまた流産しました。

ネット上では、流産が続くとクセになるという噂が流れていて、私はしばらくの間、子供を作ることを躊躇しました。

ところがそれから2年も経たないうちに、私はまた妊娠しました。

するとなぜか私が妊娠したタイミングを見計らっていたかのように、京香から連絡があり、3人で会うことになるのです。

まるでいつものルーティンのように、麻友がいないタイミングで京香が差し出したのは、また今までとは別の、Y市のH水天宮のお守りでした。

正直、この嫌な流れを断ち切りたかった私は、その翌日、「今度こそは」という思いで、腹帯を持ってK市のT八幡宮まで行って祈祷していただき、安産のお守りを買ってきたのです。

「今度こそ無事に赤ちゃんが生まれてきますように」

帰ってから主人と2人で手を合わせて祈りながら、飾り棚に腹帯と買ってきたお守りを並べて置きました。

すると、その隣に置いてあった、京香からもらった3つのお守りの四つ角が手足のように動き、まるで赤ちゃんがハイハイするように、私が置いた腹帯とお守りの方に向かって這って行ったのです!

その姿は、抱かれようと懸命に母親に縋る、赤ちゃんそのものでした。

私も主人も、現実とは思えないその光景に声も出せず、その不思議な現象をただただ見守っていました。

「これは何かおかしい」

そう思った私は、怖がる主人の静止を振り切り、京香がくれたお守りを1つ手に取ると、指先にチクっと何かが刺さり、丸い玉のような血が滲みました。

恐る恐るお守りの中身を出して見ると、もともと入っていたであろうお札は真っ二つに引きちぎられ、髪の毛の束と、赤黒く乾いた肉片がついた、おそらく小指の爪が一枚と、針に通された赤い糸で何重にも縫われた紙切れが入っていました。

「そういえば京香、会うたびに毎回、左手の小指にテーピングしてたな・・・」

入っていた紙の針と糸を抜いて広げてみると、半円の中に「子」の文字が書かれていて、そこには何度も貫くように繰り返し縫われた穴が空いています。

不器用だった京香はそれを縫う時、おそらく何度も自分の指を刺したのでしょう。紙には小さな血の跡がいくつも滲んでいました。

その前にもらった2つのお守りにも同じものが入っていたのを見て、私は思いました。

「私、そこまで恨まれてたんだ・・・」

短大を卒業してすぐ、今の主人を京香から奪ったのは、私でした。

私は彼が親友の京香と交際しているのを知っていながら、彼と関係を持ち、妊娠したのです。

泣いて謝る私に、京香は「彼だって悪いんだから、もうそんなに気にしなくていいよ」と言ってくれたので、私はすっかり禊(みそぎ)が済んだものと思い込んでいたのです。

その後、京香の連絡先は削除して、SNSも全てブロックしました。

翌年、私は無事に出産して、さらにその後に2人の子宝にも恵まれ、今は主人と5人で幸せに暮らしています。

風の噂では、京香は結婚して、今は東京に住んでいるらしいので、もし彼女に子供ができたら、安産祈願のお守りを送ってあげたいと思っています。

中身が手作りのね。

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