同居人

同居人

埼玉県 会社員 Oさん(20代・男性)が体験した怖い話

大学時代に関西から上京して来たN先輩は、同じ大学の1つ上の先輩で、厳しい部活を乗り切った戦友のような間柄です。

卒業後はお互い東京の別々の会社に就職して、社会人になってからも時々飯を食ったり、飲みに行ったりする付き合いがずっと続いていました。

N先輩は不動産会社に勤めていて、給料も良く、会社が所有しているかなり高級なマンションに住んでいるらしく、興味があった私はぜひ遊びに行かせてくださいとおねだりして、その日初めてN先輩のお宅にお邪魔することになりました。

まずは豪奢なエントランスに圧倒されながら、エレベーターで最上階に降り立ち、ホテルのような絨毯張りの内廊下の先を進んだ突き当たりにN先輩の部屋がありました。

住めそうなくらい広い玄関から廊下を進むと、突き当たりには20畳はありそうなリビングで、天井まであるガラス張りの2面からは目も眩むような摩天楼が広がり、さらにその一角には4畳半ほどの畳敷きの小上がりになっていて、床の間には和テイストの掛け軸や調度品がセンスよく並んでいました。

聞きしに勝る大豪邸、と言うと少々大袈裟ですが、会社の経営者か売れっ子ホストでもない限り、一人暮らしの20代が住めるレベルのマンションではないことは間違いありませんでした。

「いぁや!先輩!エグいっすね!!」

「あほ!褒めすぎやがな!」

満更でもなさそうな先輩が、きっと奮発してくれたのであろう高そうな酒を酌み交わしていると、何となく人の気配がしました。

気のせいかなと思っていたその時、白っぽい服を着た女性と思しき影が、リビングの向こうに伸びる廊下をスッと横切ったのが視界の端に入りました。

「あれっ?先輩、誰かと一緒に住んでるんですか?」

するとN先輩は困ったような、照れくさそうな顔で言いました。

「まぁ・・・そんなとこやな」

「やだなぁ、それ、言ってくださいよ!もしかして、奥さんですか?」

「ちゃうちゃう!」

「え!同棲ですか?俺、ご挨拶しないと・・・」

「まぁ、ええがな。そんなん言うほどのモンとちゃうがな・・・」

あまりそこは突っ込んで欲しく無いようでしたし、しつこく聞いて先輩のご機嫌を損ねるのも嫌だったので、その日はそれ以上訊くのはやめておきました。

「もう、先輩も隅に置けないなぁ・・・」

N先輩のマンションから帰る道すがら、立派なマンションに高級取りの先輩のことを思い、羨ましさが溢れて来ました。

その上、女性と同棲するなんて、20代の男にとってはちょっとした憧れです。

さらにもし、その女性がものすごく美人だったりしたら・・・ もう先輩のことが羨ましすぎて、妬みに似た気持ちになりそうです。

そうなるともう妄想が膨らみ、益々興味が湧いて来て、その次の週、また先輩の家に遊びに行くことになったんです。

「今日こそちょっと突っ込んだ話、根掘り葉掘り、聞いてみようかな。もし先輩の彼女に会ったら挨拶して、ちゃんと顔見たいな」

ウキウキしながら先輩の家に遊びに行きました。

しばらく他愛もない話で盛り上がっていたのですが、心の中ではあの女性の姿をいつ見かけるか、もし見かけたら今度こそ色々聞いてみよう、そんなことばかり考えていました。

トイレを借りるふりをして、他の部屋にいないか聞き耳を立ててみたり、気配を探ってみたりしたものの、今日はあの女性の姿をまだ見かけていません。

「俺が来るから気ィ使って出かけちゃったか、それともどっかの部屋に隠れてるのかな?」

その後もN先輩に色々と聞くタイミングを計っていた時、見るともなく畳敷きの小上がりの方に目をやると、まるで湧いて出たかのように、あの女性が正座をして座っていたのです!

それまで女性の存在に全く気付かなかったことにも驚いたのですが、私があわてて挨拶をしようとしたその瞬間、先輩が突然立ち上がって大声で言いました。

「おい!オマエ!誰やねん!!」

そう言うと、その女性は、ふわっと輪郭が曖昧になり、その場で霧散して消えてしまいました。

人間、本当に怖い時には声も出ないものです。

私は恐怖のあまり、しばらくの間、腰が抜けたような状態で、ソファから立ち上がることができませんでした。

学生時代、過酷な試合中でも大声で怒鳴るようなことなど1度もなかった、冷静で穏やかなN先輩の渾身の怒鳴り声も、この時初めて聞きました。

その後聞いた話によると、N先輩もそれまでハッキリと彼女の姿を見たことはなかったらしく、この時初めてその姿を、目の前でちゃんと見たのだそうです。

その晩、N先輩に「頼むから今日、泊まって行ってくれ」と懇願され、仕方なく1泊したものの、2人ともほとんど一睡もできませんでした。

その後しばらくして、あの時の話を聞いてみると、

「あれからもう、チラッとも出てケェへんのやわ・・・」

とのことで、そう言う先輩の表情は、やけに寂しそうでした。

ちなみにその女性は、清楚系でとても綺麗な人でした。

それにしても一体、N先輩は誰と一緒に暮らしていたのでしょうか?

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