岩手県に住む、30代の男性会社員Yさんの、まだ終わってないかもしれない恐怖体験談です。
数年前、地元で小学校の同窓会が開かれました。
同級生たちが一堂に会し、といっても田舎の学校ですので、同学年の友人は総勢で20人ほどですが、毎年卒業から18年後、皆が30歳になる年に開催される同窓会は、その小学校の卒業生の恒例行事で、懐かしい顔ぶれとの再会を楽しみにしていました。
皆、高校生くらいまでは地元にいますが、その後は就職や進学で地元を離れる者も多く、全員参加というわけにはいきませんが、お盆の時期だったこともあり、参加者の多くが帰省ついでに、泊まりがけで参加していました。
同窓会当日、毎年会場になる公民館に集まったのは、卒業生15名と、新しくできた家族を合わせて、総勢30名ほどでした。
持ち寄った郷土料理や地酒が振る舞われ、懐かしい顔ぶれとの再会にテンションも上がり、同窓会は大盛況です。
皆すっかり出来上がり、日も沈みかけた頃、誰かの「そろそろ行こうか」の号令の元、子供たちをそれぞれの家や実家に預け、同級生だけでメインイベントの会場に移動しました。
その会場とは、公民館から歩いて10分ほどの場所にある、私たちが通っていた小学校のことです。
懐かしいその佇まいは、校庭を囲む草木が当時より太く濃く生い茂ったものの、校舎も校庭の遊具もほとんど当時のままで、それぞれの胸にはぐっと込み上げてくるものもありました。
メインイベントとは、卒業時に校庭の隅に埋めたタイムカプセルを掘り起こすことでした。
私たちの小学校に代々伝わる、20年以上続く恒例行事です。
「よし!掘るぞ!」
そう言って肩に担いだシャベルを振り下ろしたのは、当時からリーダー格だったMでした。
ところが、公民館で飲みすぎたのか、手元も足元もフラフラです。
仕方なく私がMからシャベルを取り上げ、タイムカプセルが埋まっている目印の場所を掘り起こしました。
するとわずか5分ほどで、ガツンという手応えがありました。
埋める時はまだ小学生でしたので、当時は相当な深さまで穴を掘って埋めたと思っていましたが、大人になって掘り返してみると、意外にも浅いことに驚きました。
タイムカプセルの箱の上部が見えてからは、スコップと手で丁寧に掘り出し、ついにその全貌があらわになりました。
「え?こんな箱だったっけ?」
「こんなに小さかった?」
それぞれの感想を聞きながら、はやる気持ちを抑え、丁寧に箱の周りに貼ってあるテープを剥がしたところで、なぜかカウントダウンが始まったので、そのタイミングで蓋を開けました。
「・・・3、2、1、オープン!!」
中から出て来たのは、拙い字で書かれた手紙や折り紙、おもちゃ、粘土細工など、色褪せたり汚れたりすることもなく、埋めた時そのままの状態で、まるで光り輝きながら溢れ出て来たかのようで、一同から歓声が上がりました。
「すごい!そのまんまだ!!」
持って来たレジャーシートの上に、1点ずつ丁寧に並べて行くと、それぞれが「あ!それ俺のだ!」「それ、私の!」「それ!Oちゃんのじゃない?」などとその都度声が上がり、自分の思い出の品を奪い取るようにして持っていきます。
10点ほど並べた時だったでしょうか。
酔っ払いのMが千鳥足で箱の横に来て、無造作に手を突っ込むと「イテッ!!」と言って、慌てて手を引っ込めました。
「M、どうした?」
「イッテー!なんか刺さったぞ!!」
見るとMの指先から血が滴っています。
箱の中を覗くと、一番底に、他のアイテムとは明らかに異なる、異質な物体があるのが見えました。
「何だこれ?」
ライトで照らしてみると、紙粘土でできた白い人形に数本の針が刺さっていて、その見た目は藁人形を彷彿とさせるものでした。
さらによく見ると、人形の胸には白い紙が置かれ、それを貫通するように針が刺さっています。
その紙には、おそらくMの血と思われる赤い斑点が着いていました。
「まったく誰だよ!こんなもん入れたのは!!」
怪我をした右手を押さえるMの怒声で、明らかにその場の雰囲気は一変し、気まずい空気が流れました。
Mの二の舞にならないよう、そっとその人形を取り出してシートの上に並べたものの、自分のものだという声は聞こえて来ません。
酔っ払いの暴走とは恐ろしいものです。
酒と怒りで分別を失ったMは、皆の静止を振り切り、人形を鷲掴みにして針を抜き捨て、刺さっていた紙を広げて中身を見たのです。
その瞬間、暗い中でも分かるほど、Mの顔色が見る見る青ざめて行くのがわかりました。
「くっだらねぇ!」
そう言いながらその紙を丸めて捨てたMを、同級生の女子が嗜めました。
「何すんのよ!誰かの思い出なんだよ!」
そう言って彼女が拾い上げた紙を広げ、周囲にいた数人で確認すると、「ヒッ」という小さな悲鳴が聞こえたのをきっかけに、皆で寄ってたかって中身を見てしまうことになりました。
その紙に書かれていた内容は
「呪 イカノモノ エイキュウニ ユルサナイ」
そこには、赤い文字で同級生5人の名前が書かれ、その下には何かおまじないのような紋様が描かれていました。
「これ書いたの、S君じゃない?」
一人の女子の言葉に、小学校時代の記憶が蘇りました。
S君は私たちの同級生で、Mを含む5人グループのいじめの的でした。
書かれていた名前は上から順番に、A、F、C、M、Kとあり、Mの名前は4番目で、Kは欠席でした。
その時、同級生の一人が口を開きました。
「俺、言うタイミング失ってたんだけど、AとF、事故で2年前に亡くなったらしいぞ・・・」
すると、もう一人が言いました。
「それ言うんだったら・・・Cも去年、病気で亡くなったんだってよ・・・」
全員の背筋に、怖気が走りました。
30歳と言う若さで、20人しかいない同級生のうち、3人が亡くなっていると言うのは、ありえないことです。
そうなると一番怖いのは、名簿の次にあるMであることは言うまでもありません。
「S君に謝ったほうがいいんじゃない・・・?」
震える声で誰かが言いましたが、同窓会の参加者にS君の連絡先を知るものは誰もいません。
「今も住んでるかどうか知らないけど、俺、S君の住んでた家、知ってるよ」
その後、いじめたMだけで謝りに行けだの、全員見て見ぬ振りをしていたのだから、今ここにいる全員で謝ったほうがいいだの、喧喧諤諤(けんけんがくがく)あったものの、あまり大勢で押しかけるのは迷惑だろうと言う結論に落ち着き、Mと私とS君の家を知っている男子と、もう一人の女子と4人で、S君の家に行くことになりました。
道中、ほとんど声を発することもない4人は、まるで死刑台に向かう気分で、一体何と言って謝ればいいのか、懸命に考えていました。
30分ほど歩いたところで、S君の家「だったところ」に到着しました。
家はすっかり廃墟になっていました。
「もしかしたら、私のお母さん、S君の家族のこと、知ってるかもしれない」
同行した女子が突然何かを思い出したらしく、その場で実家に電話をかけて、S君の所在を確認してくれましたが、話が進むにつれて、声が沈み、決して良い知らせでないことは想像できました。
彼女曰く、S君が高校生の時、家の中で首を吊って亡くなっていて、それから間も無く、2人暮らしだった母親も、その後を追うように自ら命を絶ったと言うのです。
しばらく呆然とした後、それでも、だからこそ、S君にちゃんと謝ったほうが良いだろうと言うことになり、せめてお墓参りに行こうと言う結論に至り、翌日、近所のお寺で見事S君とお母さんのお墓を探し当て、献花し、手を合わせることができました。
それから2年経った今の所、名簿の5人目のK君は何事もなく暮らしているそうですが、4人目のMは・・・残念ながら間に合いませんでした。
もしかしたらK君も・・・時間の問題かもしれません。