長野県 介護士 Yさん(20代・男性)の現在進行形の恐怖体験談
事の始まりは、今から20年以上も前の話です。
当時、小学生だった私が住んでいたのは、東西と北側の三方を山に囲まれ、南側には美しい川が流れ、まるでジブリの世界に迷い込んだような風景が広がる、のどかな里山でした。
住人はほぼ全員が顔見知りで、私たちが通るたびに声をかけてくれますし、時には縁側でおやつを食べさせてもらったりして、まるで村中が1つの家族のような暮らしぶりです。
私は毎日、友達と野山に分け入って虫を取ったり、川で魚を獲ったりして遊ぶのが日課で、それは私の黄金期とも言える時代でした。
そんな私が、小学校4年生になった初夏のことです。
歩いて30分以上かかる小学校は、全校生徒がわずか15人。
授業は低学年と高学年の2クラスに分かれて受けていましたが、昼休みや放課後ともなると、15人はまるで兄弟のように、一緒に仲良く遊ぶ毎日です。
そんなのどかな日々の中、ある日突然、大事件が起こりました。
その日は午前中が雨でしたので、昼休みは教室で大人しく遊んでいたのですが、午後からはスカッと晴れ、放課後になるとすぐに、昼休みの鬱憤を晴らさんばかりに、皆、興奮気味に校庭に集合しました。
誰からともなく「今日はかくれんぼしよう!」ということになったので、いつものルールでオニを決め、15人全員参加のかくれんぼが始まりました。
いつの間にかできた、私たちの「かくれんぼのルール」は、全員が熟知しています。
そのルールとは「隠れていいのは学校の敷地内だけで、『裏』に入るのは禁止」というものでした。
「裏」とは校舎の裏側のことで、そこには先生方が使う駐車場や、用務員さんが使う焼却炉、雑然と積まれた廃材置き場などがあり、一番隠れやすい場所ではあったものの、侵入禁止区域とされていました。
子供ながらに、安全且つエキサイティングに遊ぶ方法を、自然と作り上げていったのでしょう。
かくれんぼが始まりました。
「もーいーかい!」
「まぁーだだよ!」
様々な方向から、声が聞こえて来ます。
「もーいーかい!」
「まぁーだだよ!」
かなり遠くから聞こえる声もあれば、くぐもった声もあります。
おそらく、校庭の小山のトンネルの中から聞こえてくる声でしょう。
「もーいーかい!」
「もーいーよ!」
全員の意思が示されると、捜索スタートの合図です。
その時、確か6年生のS君がオニだったと記憶しています。
順調に一人ずつ、隠れていた友達を見つけていくS君。
そもそも、隠れられる敷地は広いものの、場所はだいたい決まっていますし、低学年の子は2、3人まとまって隠れることが多いので、次々と見つかってしまいます。
開始10分ほどで13人が見つかり、最後の一人となったM君を探しましたが、彼だけがなかなか見つかりません。
「ずるい!きっと『裏』に隠れてるんだ!」
誰かがそう言ったのを合図に、みんなで一斉に「裏」で大捜索となりましたが、やはりどこを探してもM君だけが見つかりません。
夏場とはいえ、地形的に山に囲まれた村の中は、あっという間に暗くなります。
校舎の裏でウロウロする私たちに気付いた先生に、あまりそこで遊ばないようにと注意されましたが、事情を説明すると、先生方もM君の捜索に参加してくれました。
ところが、何度呼んでも、どこを探しても、まるで忽然と消えてしまったかのように、M君の姿が見当たりません。
心配した先生が、M君が家に帰っていないか確認の電話をしてくれましたが、やはり帰っていないと言うことでした。
私たちも、次第に事が大きくなっていくのを感じていました。
あたりがすっかり暗くなってきた頃、M君のお父さんとお母さんが捜索に参加したのをきっかけに、近隣住民はもちろん、とうとう警察や消防団なども加わり、大規模な捜索をしましたが、夜中になってもM君は見つかりませんでした。
翌日も、さらにその次の日も捜索は続き、とうとう大規模な山狩りにまで発展しました。
何の手がかりもないまま1週間が経ったある日、大規模捜索は打ち切りとなり、今後は警察と消防団のみで捜索を継続するということになりました。
一緒に遊んでいた私たちは、罪の意識に押しつぶされそうになりました。
たった一人だけいたM君の同級生の家族は、罪悪感に苛まれたのか、逃げるように村を出て行きました。
この事件がきっかけになり、それまで家族のようにまとまっていた村の住人は、なんとなく雰囲気が暗くなり、次第に疎遠になっていくのを、私は子供心に感じていました。
それから数年の月日が流れ、私は高校を卒業し、県内の会社に就職したのをきっかけに、町で一人暮らしを始め、あっという間に10年が経ちました。
その時まで事件の事などほとんど忘れていたのですが、最近になって突然、否応無しに思い出さざるを得ない現象が起こり始めました。
今から1週間ほど前、疲れ切って仕事から帰って来た私は、ベッドに倒れ込むように眠りについたのですが、意識が遠のく間際に、子供の「もーいーよ」という声が耳元で聞こえたような気がして、慌てて飛び起きました。
「今のは・・・なんだ?」
テレビは消えていますし、スマホのアプリも作動した形跡がありません。
その時、直感的に、18年前にかくれんぼ中に行方不明になったM君の声ではないかと感じました。
しばらくそのことを考えてみたものの、疲れと眠気に勝てず、その日はそのまま眠り込んでしまいました。
困ったのはその翌日からです。
初めは寝ばなに1回だけだったその声も、連日、寝落ちしそうになるたびに聞こえるようになり、それが原因で寝不足が続くようになりました。
そしてその声は、日を追うごとに聞こえる回数が増え、声も大きく、はっきりと聞こえるようになってきました。
「M君だ・・・ M君の声に間違いない!」
私は確信しました。
「M君!ごめんね!あの時一生懸命探したんだよ!M君!許して!!ごめんね!!!」
汗だくになって電車の中で大声をあげて飛び起きた私に、まわりにいた乗客の冷たい視線が刺さりました。
いたたまれない気持ちで持っていた鞄を強く抱え、次の駅で電車を降り、残りの2駅をトボトボと歩いて帰りました。
その翌日からでした。
声に変化が出てきたのです。
今までは、かくれんぼの時の子供らしい「もーいーよ」だったのですが、その声が日を追うごとに野太くなり、遂には怒気と苛立ちと、諦めを含んだ語気で言われたのです!
「・・・モウ・・・イイヨ・・・」
・・・それは「もう、気にしなくていいよ」「探さなくていいよ」という意味なのか、それとも・・・
その声に何度も何度も苛まれ、今もほとんど眠れずにいます。